大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成7年(ワ)23663号 判決 1997年9月26日

原告・反訴被告

小澤勝

被告・反訴原告

株式会社タオヒューマンシステムズ

右代表者代表取締役

芹澤正信

右訴訟代理人弁護士

武田博孝

主文

一  本訴被告(反訴原告)は、本訴原告(反訴被告)に対し、金七〇万六五三五円並びに内金四六万八四九五円に対する平成七年一二月九日から支払済みまで年一四・六パーセントの割合による金員及び内金二三万八〇四〇円に対する平成七年一二月九日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え。

二  本訴原告(反訴被告)のその余の請求及び本訴被告(反訴原告)の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、本訴反訴を通じてこれを三分し、その一を本訴原告(反訴被告)の負担とし、その余を本訴被告(反訴原告)の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

(本訴)

本訴被告(反訴原告、以下、被告という)は、本訴原告(反訴被告、以下、原告という)に対し、金一四五万四四七一円及びこれに対する平成七年一二月九日から支払済みまで年一割五分の割合による金員を支払え。

(反訴)

原告は、被告に対し、金六二万九七二〇円及びこれに対する平成八年一月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本訴請求は、原告と被告との契約が労働契約であることを前提として、原告が未払賃金、解雇予告手当及び付加金等の支払いを求めているものであり、反訴請求は、右契約が労働契約ではなく単なる請負契約であることを前提として、債務不履行による解除に基づき被告が既払金の返還と損害賠償を求めている事案である。

一  争いのない事実

1  被告は、コンピュータソフトウェアの企画、制作及び販売を主たる業務とする会社である。

2  原告は、平成七年四月一八日(以下、特別に記載しない限り平成七年の意味である)から八月一七日まで、被告の社内において、アドベンチャーゲームソフト「タトゥーンマスター」(以下、本件ゲームという)のプログラムの作成に従事した(なお原告と被告との契約が労働契約であるか否かについては争いあり)。

3  被告は、原告に対し、五月一五日ころまでに九万円、六月一五日ころに二五万三五〇円、七月一四日ころに二四万七八五〇円を交付した。

4  被告は、八月一七日、原告に対し、原告と被告との間の契約を解除する旨を通知した。

二  争点

原告と被告との間の契約が労働契約であるか等

三  当事者の主張

(原告)

1 原告と被告は、労働契約を締結し、四月一八日から八月一七日まで就労した。労働契約の内容は、月給二五万円(税金を含み、交通費は別途支給)、毎月末日締めで翌月五日払い、一日の実働が七・五時間で土、日曜日と祝日は休日という約束であった。

2 被告は、八月一七日、原告を解雇した。

3 被告は、八月に支給される給与(七月の労働分の対価)二三万八〇四〇円及び八月一日から八月一七日までの給与六万九九六〇円(勤務時間六四・六時間に対して時間単価一〇八六円で計算した内金、時間単価については後述)を支払わない(合計額三〇万八〇〇〇円)。

また、被告は、六月中の交通費二五〇〇円、七月中の交通費一万二三一〇円、八月中の交通費二五八〇円を支払わない(合計額一万七三九〇円)。

4 原告の五月から八月までの各勤務日における勤務時間は、別紙一の1ないし4記載のとおりである。五月の法内残業時間(七・五時間を超えて八時間以内の部分)は一〇時間、法外残業時間(八時間を超える部分)は七一・五時間、六月の法内残業時間は一一時間、法外残業時間は三二時間、七月の法内残業時間は一〇・五時間、法外残業時間は一二四・五時間であり、右期間中の合計は、法内残業時間が三一・五時間、法外残業時間が二二八時間である。

また、時間単価は、退職前三か月の総月給額七五万円(本来の六月支給分から八月支給分まで)を所定労働時間(一日七・五時間)の総計(九二日間、六九〇時間)で除した一〇八六円(小数点以下切捨て)であり、法外残業時間の時間単価は、二割五分増しの一三五七円(小数点以下切捨て)である。

右によると、法内残業に基づく賃金が三万四二〇九円、法外残業に基づく賃金が三〇万九三九六円であり、その合計が三四万三六〇五円である。

5 被告は、解雇予告手当二三万八〇四〇円を支払わない。

6 被告は、原告に対し、労働基準法一一四条に基づき、法外残業時間に関する未払賃金と同額の付加金三〇万九三九六円及び解雇予告手当の未払い額と同額の付加金二三万八〇四〇円の支払いをすべき義務がある(合計五四万七四三六円)。

7 したがって、原告は、被告に対し、未払賃金(時間外賃金及び交通費も含む)及び解雇予告手当の合計九〇万七〇三五円及び付加金五四万七四三六円(以上合計一四五万四四七一円)と年一割五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

8 被告の主張1ないし5は争う。前記主張のとおり、原告と被告との間の契約は労働契約であり、被告の反訴請求はこれを前提としていないので理由がない。

(被告)

1 原告と被告は、四月半ばころ、原告が本件ゲームのプログラムを作成すること、納期を七月末日、報酬が七五万円(但し約一か月毎に分割払い)、本件ソフト作成は被告の社内において行うこと、交通費は別途実費を支給することを内容とする請負契約を締結した。

2 被告は、右契約に基づき原告に対し、五月一五日に報酬として九万円、六月一五日に報酬として二三万八〇四〇円、交通費として一万二三一〇円、七月一四日に報酬として二三万八〇四〇円、交通費として九八一〇円の合計五八万八二〇〇円を支払った。

3 原告は、八月一七日までに、本件ゲームのプログラムを完成させることが出来なかった(動作が非常に遅く商品としての完成度が著しく低いものしか提出できなかった)。そこで、被告は、右同日、原告に対し、債務不履行により契約を解除する旨の意思表示をした。

4 原告は、右契約が雇用であることを前提として、労働基準監督署への申出と東京簡易裁判所への調停申立てを行ったため、被告の取締役は、八月二八日に労働基準監督署へ出頭し、九月二七日、一〇月二〇日及び一一月一七日に東京簡易裁判所へ出頭した。右により、被告は、取締役の半日分の報酬相当額として少なくとも一回一万円の損害を被り(四回分合計四万円)、交通費として労働基準監督署への分として一回五六〇円、東京簡易裁判所への分として一回三二〇円の損害を被った(四回分合計一五二〇円)。

5 したがって、被告は、原告に対し、請負契約の債務不履行解除に基づく既払金返還として五八万八二〇〇円、右に基づく損害賠償として四万一五二〇円の支払い(以上合計六二万九七二〇円)と年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

6 原告の主張1ないし7は争う。前記主張のとおり、原告と被告は、請負契約を締結したが、原告の債務不履行により解除したものであり、労働契約の存在を前提とした原告の本訴請求には理由がない。なお、被告が右契約を解除したのは、指示に従ったプログラムの組み方をしていなかったこと、中間段階のプログラム提出に異常に時間がかかっていること、作業内容に疑問のあること等によるものである。

次に、原告主張の別紙一の1ないし4の在社時間については、次のとおり認否するが、認めるものについても、原告が被告の社内で仕事をしていたことまでを認める趣旨ではない。五月一日及び二日は否認する。五月八日ないし一一日は認める。五月一二日は出社時間は認めるが退社時間は不知。五月一五日ないし一九日は認める。五月二二日ないし三一日は否認する。六月一日ないし三日は認める。六月五日は一四時四五分から二二時までの範囲で認め、その余は否認する。六月六日ないし九日は不知。六月一〇日は出社時間は認めるが退社時間は不知。六月一二日ないし一四日は認める。六月一五日は出社時間は認めるが退社時間は不知。六月一六日及び一九日は認める。六月二〇日ないし二三日は否認する。六月二六日及び二七日は否認する。七月三日ないし七日、一〇日及び一一日は認める。七月一二日は出社時間は認めるが退社時間は不知。七月一三日は出社時間及び退社時間は認めるがその余は否認する。七月一四日及び一五日は認める。七月一六日は否認する。七月一七日は出社時間は認めるが退社時間は不知。七月一八日及び一九日は否認する。七月二〇日、二一日及び二四日は認める。七月二五日は出社時間は認めるが退社時間は不知。七月二六日は否認する。七月二七日は認める。八月分は認める。

第三争点に対する判断

一  本件の経緯については、前記争いのない事実、証拠(略)によれば、次の事実が認められる。

1  被告は、四月ころ、求人誌にアルバイトと契約社員の求人広告を出した。その内容は、賃金がアルバイトが時給九〇〇円以上、契約社員が月給二五万円以上、業務内容がコンピュータグラフィックの制作、マッキントッシュ及びウィンドウズ版でのプログラム、ゲーム制作での進行管理、勤務時間が一〇時から一八時三〇分で実働が七・五時間、休日が土・日曜日と祝日等というものであった。

2  原告は、右広告を見て被告に応募し、四月一二日ころに被告の取締役幡垣裕二(以下、幡垣という)から面接を受け、四月一五日ころに幡垣及び被告代表者らから面接を受け、その中でPC98によるゲームプログラムの制作には携わったことがあるものの、マッキントッシュ及びウィンドウズ版でのプログラム作成の経験はないこと、大学の夜間部に通学していること等を話し、幡垣及び被告代表者らから、原告に本件ゲームのプログラムの作成を行ってもらうこと、発注元会社への納期が七月末日でありこれに間に合うようにすぐにでも作業を始めて欲しいこと等の話を聞いた。なお、原告と被告は、本件ゲームのプログラム作成(以下、本件作業という)を被告の社内において行うこと、本件作業については基本的には被告の業務時間である一〇時から一八時三〇分までの間に行うが厳密な意味での拘束はしないこと等を明示又は黙示に合意した。

3  原告の被告への出社状況、出社時間及び退社時間、本件作業時間については、別紙二の1ないし4記載のとおりである(具体的認定は後記三記載のとおり)。原告は、被告の休日以外では、六月二八日から三〇日、七月二八日、三一日、八月一日及び二日には被告に出社していないが、その他の日には出社している。原告の出社時間(平日)は、五月と七月は概ね一〇時から一一時の間であるが、六月は半分程度が午後になっている。

4  本件ゲームの制作は、現実には進行管理と企画が北村玲(以下、北村という)、シナリオは小黒圭(以下、小黒という)、プログラムは原告、グラフィックは社員又はアルバイトの者で約七人、音響その他は外部の者が行っていた。プログラムについては、当初、小田典広(以下、小田という、被告の社員ではない)が一定部分について関与する予定であり、それに基づいて工程も組まれていたが、現実にはほとんど関与することはできなかった。

また、原告は、本件作業のほとんどについて、被告の社内において、被告の器材等を使用して行っていた。原告は、右作業のほか、被告のグラフィックの担当者には十分に経験のある者が少なかったため(いずれも五月ころに採用された者が多かった)、これらの者に対し、新規に導入された器材の設置やソフトウェアの管理、操作の説明等を行っていた。

5  被告は、原告に対して交通費以外に、五月九日ころに四万五〇〇〇円、同月一五日ころに四万五〇〇〇円、六月一五日ころ及び七月一四日ころにそれぞれ二三万八〇四〇円を交付している。幡垣が五月九日ころに原告に対して四万五〇〇〇円を交付した際、同時に交付したメモには、四月一八日から二八日の間の実働が九日間で、研修期間なので一日五〇〇〇円で計算すると九日間で四万五〇〇〇円との趣旨の記載がある。また、被告が原告に対して二三万八〇四〇円を交付した際に同時に交付した明細票には、給与総額二五万円、源泉額一万一九六〇円、支給額二三万八〇四〇円との記載がある。

6  被告は、原告に対し、六月一日ころ雇用に関する契約と題する書面(書証略)を交付し、翌日、一部を訂正した書面(書証略)を交付した。右書面には、業務内容、勤務時間、報酬(月額二五万円)等の記載があったが、原告及び被告は、これに署名捺印をしなかった。また、原告は、六月ころには被告の幡垣に対し、時間外手当の支給についての要求をしたが、被告は、この段階では請負契約であるので時間外手当は支給できないとの明確な説明をしていない。

7  被告は、五月八日から六月三〇日まで、アルバイト出勤表と題する書面に、契約社員及びアルバイトの者に出社時間と退社時間の記載をさせ、七月一日からはタイムカードにより右の者の出退勤管理を行っていたが、原告に対しても出退勤時間の記載を行うように指示していた。また、原告は、六月上旬ころ、五月初めから六月六日までの勤務時間と作業内容を一括して記載した勤務報告書と題する書面を幡垣に提出し、六月七日以降は出社した日については、勤務時間と業務内容を記載した日別の業務報告書を幡垣又は北村に提出していた。右業務報告書には監督者の承認とコメントの欄があり、七月五日の欄に「どんな小さな作業でも他にやってもらえるものがあれば報告下さい」、七月六日の欄に「なんとかプログラマーを増やすようがんばっておりますが、それまでは現在のメンバーで作業するしかないです」、七月一三日の欄に「藤井君と上手く作業の分担をして下さい」、七月一五日の欄に「今後のラインではプログラムメンバーを増強していくつもりです。但し外注やアルバイトになるかもしれません」、七月一六日の欄に「休みや時差の出勤は事前に報告下さい」等の記載がある。

8  被告は、本件ゲームの制作について、発注元会社に対して七月一七日までに中間段階の作品を仕上げることを約束していた。しかしながら、原告がゲームソフトのプログラム制作に必ずしも習熟していなかったこと、当初の工程表を作った段階では小田がプログラム作成の一定部分について関与する予定であったが、現実にはほとんど関与しなかったこと、小黒が担当していたシナリオの作成が遅れていたこと等が原因で、七月一七日までには、本件ゲームの中間段階の作品を制作できなかった。そして、原告は、七月二七日ころ、それまでに仕上がったものを被告に提出したものの、これは、動作が遅く中間段階の作品としても充分なものではなかった。

9  被告は、八月一七日、原告に対し、契約を解除する旨を通知した。

二1  原告と被告との間の契約について、原告は労働契約であると主張し、被告は労働基準法の適用のない単なる請負契約であると主張するので判断する。

2  前記一で認定した事実によれば、契約段階での合意はもちろん現実の作業においても原告の本件作業は被告の社内で、被告が調達した器材を使用して行っていたこと、原告は被告から出社時間及び退社時間がわかるようにタイムカード等への記載を指示されて現実に記載していたこと、原告への金員交付時の明細書には給与と記載されて源泉徴収も行われていたこと、殊に最初の金員交付時には被告担当者が研修期間と称して日給計算を行っていること、本件作業については被告の北村から進行管理を受けており、本件作業の状況等については業務報告書を被告担当者に六月七日以降は毎日提出していること、そして右報告書中の被告の担当者のコメント欄には原告が被告の内部の者であることを前提とした記載が見られるほか、少なくとも七月ころには被告の従業員(アルバイトの者を含む)と密接に連携をとったうえで作業を遂行していたことを窺わせる記載のあること、原告は本件作業以外にもグラフィック担当者らに器材の操作説明等も行っていたこと、原告はもともと被告の契約社員等の募集広告に応募した者であること、被告は原告に対して両者の署名捺印はないものの雇用に関する契約と題する書面を交付していること、原告は六月ころには被告の幡垣に対して時間外手当についての要求をしているが被告は十分な説明もせずに放置していること(請負契約であり残業をしても時間外手当が出ないとの認識であれば、被告としてはこの段階で明確な合意をしておくべきものである)等の事実が認められ、また被告から原告に対して契約時に、本件作業のみの契約であり七月末日までに完成しなかった場合には途中で支払った金員を全て返還してもらうこと等を明確に説明していたと認めるに足りる証拠がなく、これらの点に原告の供述(証拠略)をあわせて考慮すると、原告と被告との間の契約は、賃金を毎月二五万円(交通費は別途支給)とする期間の定めのない労働契約であるというべきである。

3  ところで、被告は、<1>幡垣が契約時に原告に対して請負契約であることを明確に示した旨を供述していること(証拠略)、<2>原告の出社時間をみると勤務の開始時間である一〇時には出社していないこと、<3>休日以外でも出社していない日があること、<4>原告に関するタイムカード等の記載は防犯上のものであり、欠勤遅刻に対して制裁を行っていないこと、<5>被告が応募広告を出したのはマッキントッシュ及びウィンドウズ版のプログラマーであるが原告はPC98のプログラマーであって募集広告に基づいて採用したわけではないこと、<6>報酬の支払いも分割して前渡金として支払ったものであること等を主張し、右契約に労働基準法の適用のないことを主張する。

しかしながら、<1>、<5>及び<6>については、幡垣(あるいは被告代表者)が原告に対して七月末日までに本件ゲームのプログラムが完成しなかった場合には途中で支払った金員を全て返還してもらうことを明確に説明していたとするには、この点のやりとり等について必ずしも具体的に証言されていないし(この説明が明確になされていないとすると前記二2の状況下では労働契約といわざるを得ない)、金員の交付もすべて給与ということで明細を交付していること等に鑑みると理由がない。<2>ないし<4>については、原告が面接時に提出した履歴書にも在学中なのでフレックス出退勤を利用したい旨の記載があり(書証略)、労働契約を前提として考えても契約時に原告と被告との間で勤務時間については一〇時から一八時三〇分までとは拘束しない旨の約束があったとしても不自然ではないこと、被告の社員でシナリオを担当していた小黒も一〇時を過ぎて出社することも少なくはなかったこと(特にタイムカード導入後、証拠略、概ね実働七・五時間を超えて働いており、これを下回る時もその前後で七・五時間を超えて働いていること、原告は七月二八日、三一日、八月一日及び二日に被告に出勤していないが、これは七月半ばころに休日出勤や被告の社内に泊り込んで勤務をする状況が多かったために事実上その振替の意味をもっていること、八月一四日ないし一六日にも出勤していないが被告が夏休みであったこと(書証略)、そして休日以外に原告が出勤していないのは右を除けば六月二八日から三〇日の期間だけであること、タイムカードへ記載させたことが防犯上の理由というだけでは必ずしも合理的な説明になっていないし、業務報告書の被告担当者のコメント欄には「休みや時差の出勤は事前に報告下さい」との記載も存すること等を考慮すると理由がない。

4  したがって、原告と被告との契約が請負契約であることを前提とする被告の反訴請求はその余の点について判断するまでもなく理由がない。

三1  原告の被告における勤務状況は、別紙二の1ないし4記載のとおり認められるが、その詳細は以下に記載するとおりである。

2  五月一日は一〇時三〇分から一九時三〇分まで在社したものと認められるが(書証略)、被告の社員については勤務時間が基本的には一〇時から一八時三〇分と定められ、その中で一時間の休憩時間が定められていること等を考慮すると、在社時間の中で一時間は休憩時間に充てられたものと認められ、その余の時間は勤務に従事したものと認められる(弁論の全趣旨、以下特別に説示する場合以外はすべて休憩時間を一時間、その余の時間を勤務した時間と認定した)。なお、残業については、納期と比較して本件作業の進行状況が遅れていたこと(証拠略)を考慮すれば、被告の明示又は黙示の指示によるものと認められる(以下、特別に説示する場合以外は、全て同様である)。

五月二日は一〇時三〇分から一八時まで在社したものと認められる(書証略、弁論の全趣旨)。

五月八日ないし一一日の在社時間については争いがない。なお、五月九日ないし五月一一日はいずれも一〇時間以上在社しているが、在社時間を考慮すると一時間三〇分の休憩時間がとられたものと認められ、その余の時間を勤務したものと認められる(弁論の全趣旨、以下特別に説示する場合以外は一〇時間以上の在社の場合は一時間三〇分の休憩時間がとられたものとして勤務時間を認定した)。

五月一二日は一〇時一〇分から一八時三〇分まで勤務したものと認められる(書証略)。(書証略)には一九時三〇分まで在社した旨の記載があるが、アルバイト出勤表(書証略)には何らの記載もないところ、原告は拘束時間も緩やかであり、被告において原告が残業をしたか否かを把握し、翌日以降も残業をすべきか否かの指示を出すための基礎となる資料は右出勤表であるから、これに退社時間を記載していない以上、残業指示のあることを前提とする請求(定時の一八時三〇分を超えて勤務したことを前提とする請求)はできないものというべきである。

五月一五日ないし一九日の在社時間については争いがない。

五月二二日ないし三一日については、(書証略)には勤務時間の記載があるもののアルバイト出勤表(書証略)には何らの記載もない。(書証略)は六月六日ころに五月以降の勤務状況を原告が被告に報告したものであるが、勤務時間については、原告は毎日アルバイト出勤表に記載すべき義務があったというべきである。すなわち、被告において原告が残業をしたか否かを把握し、翌日以降も残業をすべきか否かの指示を出すための基礎となる資料は右出勤表であるから、これに勤務時間を記載していない以上、残業指示のあることを前提とする請求(時間外手当や休日手当の請求)はできないものというべきである。もっとも(書証略)により勤務自体は認められるから、五月二二日ないし二六日と二九日ないし三一日は所定の七時間三〇分の勤務として計算されるべきものと認められる。

3  六月一日ないし三日の在社時間については争いがない。

六月五日は一四時四五分から二二時まで在社したものと認められる(書証略)。

六月六日ないし九日の在社時間については争いがない。

六月一〇日は一六時から二一時まで在社したものと認められる(書証略、弁論の全趣旨)。但し在社時間が六時間に満たないので休憩時間は三〇分として算定した(弁論の全趣旨、以下同様の方法で算定した)。なお、原告作成の業務報告書(書証略)の監督者の承認とコメント欄には何ら記載がないものの、アルバイト出勤表(書証略)には出社時間の記載が存することを考慮して、右のとおり認定した。

六月一二日ないし一四日の在社時間については争いがない。

六月一五日は一三時三〇分から二〇時一五分まで勤務したものと認められる(書証略)。業務報告書(書証略)には勤務時間の記載があり、監督者の承認とコメント欄に一応の記載があるので、右のとおり認定した(以下、同様の記載のものは同じ方法で認定した)。

六月一六日及び一九日の在社時間については争いがない。

六月二〇日は一〇時二〇分から二三時三〇分まで在社したものと認められる(書証略)。

六月二一日は一五時四五分から二二時四五分まで在社したものと認められる(書証略)。

六月二二日は一四時一五分から二三時一五分まで在社したものと認められる(書証略)。

六月二三日は一六時三〇分から二二時まで在社したものと認められる(書証略)。

六月二六日は一一時四五分から一三時三〇分までと一五時三五分から二一時三〇分まで在社したものと認められる(書証略)。

六月二七日は、アルバイト出勤表(書証略)には全く記載がなく、業務報告書(書証略)には勤務時間の記載があるものの、監督者の承認とコメント欄には何ら記載がないので、所定の七時間三〇分の範囲で勤務したと計算されるべきものと認められる。

4  七月三日ないし七日、一〇日及び一一日の在社時間については争いがない。

七月一二日は一〇時二二分から二四時まで在社したものと認められる(書証略)。なお、タイムカード(書証略)には退社時間の記載がないが、業務報告書(書証略)には勤務時間の記載があり、監督者の承認とコメント欄に一応の記載があるので、右のとおり認定した(以下、同様の記載のものは同じ方法で認定した)。

七月一三日は、零時から八時までと一〇時から二四時まで在社したものと認められる(書証略)。但し、右在社時間に鑑みて三時間が休憩時間に充てられたものと認められる(弁論の全趣旨)。

七月一四日及び一五日の在社時間については争いがない。

七月一六日は零時から九時三〇分までと一二時三〇分から二四時まで在社したものと認められる(書証略)。但し、右在社時間に鑑みて三時間が休憩時間に充てられたものと認められる(弁論の全趣旨)。

七月一七日は零時から七時三〇分までと一〇時から二四時まで在社したものと認められる(書証略)。但し、右在社時間に鑑みて三時間が休憩時間に充てられたものと認められる(弁論の全趣旨)。

七月一八日は零時から二四時まで在社したものと認められる(書証略、弁論の全趣旨)。タイムカード(書証略)及び業務報告書(書証略)に勤務時間の記載はないものの、本来は七月一七日までに中間段階の本件ゲームソフトを制作しなければならなかったものの、右期限までに制作できず、このころ(一応の提出を行った七月二七日ころまで)原告は被告の社内に泊り込んで作業を行っていたことが認められる(書証略、なおこの残業については被告も認めていたものと認定できる)。但し、右在社時間に鑑みて三時間が休憩時間に充てられたものと認められる(弁論の全趣旨)。

七月一九日は零時から二一時三五分まで在社したものと認められる(書証略、弁論の全趣旨)。但し、右在社時間に鑑みて三時間が休憩時間に充てられたものと認められる(弁論の全趣旨)。

七月二〇日、二一日及び二四日の在社時間については争いがない。但し、七月二一日及び二四日は右在社時間に鑑みて三時間が休憩時間に充てられたものと認められる(弁論の全趣旨)。

七月二五日は一〇時四九分から二四時まで在社したものと認められる(書証略、弁論の全趣旨)。

七月二六日は、少なくとも七時間三〇分の勤務を行ったことが認められる(書証略、弁論の全趣旨)。

七月二七日は、少なくとも七時間二六分の勤務を行ったことが認められる(書証略、弁論の全趣旨)。

5  八月分の在社時間については争いがない。

四1  原告は、七月の労働の対価として八月に支給されるべき基本給として二三万八〇四〇円を請求するところ、前記認定のとおり、原告と被告との契約は賃金を毎月二五万円とする労働契約であると認められるから、右請求は理由がある。

また、原告は、八月一日から八月一七日までの賃金として、時間単価に勤務時間を乗じた額(但し六万九九六〇円)を請求している。ところで、原告は時間単価を一〇八六円と主張しているところ(退職前三か月の総月給額七五万円を六九〇時間〔一日の所定労働時間七・五時間に所定労働日を九二日として計算〕で除して小数点以下を切り捨てたもの)、右は一か月の賃金額を一か月の所定労働時間で除して算出した時間単価以内の額であるから、原告主張の一〇八六円を時間単価として計算する。そして、原告の八月の勤務時間は前記認定のとおり六〇時間五九分であるから(別紙二の4、月間労働時間欄記載)、これに時間単価を乗ずると六万六二二八円(小数点以下四捨五入)であるから、八月一日から八月一七日までの賃金は六万六二二八円の範囲で理由がある。

2  原告は、平成七年六月中の交通費二五〇〇円、七月中の交通費一万二三一〇円、八月中の交通費二五八〇円を請求するところ、原告と被告との労働契約では交通費を支給する約束になっていること(前記二で認定のとおり)、原告が被告に通勤するための一か月の定期券代が九八一〇円(但し一日の交通費は八六〇円)で駐輪場代が二五〇〇円であるのに、六月分の駐輪場代、七月分の交通費全額、八月分の交通費の支給はなされていないこと(書証略、弁論の全趣旨)から、原告の請求(合計額一万七三九〇円)には理由がある。

3  原告は、五月から七月にかけての勤務に関し、未払いとなっている時間外手当を請求している(三四万三六〇五円)。ところで、原告は、各月の月間労働時間について、所定の月間労働時間(所定月間労働日数に七・五時間を乗じたもの)を超えて、所定月間労働日数に八時間を乗じた合計の労働時間以内の部分については法内残業として、右時間数に時間単価を乗じた額を、また、右時間を超える部分については時間単価の二割五分増しの一三五七円(小数点以下切捨て)を乗じた額を、時間外手当としてそれぞれ請求している。本件においては、右の計算方法によっても被告に有利なので、これに基づき時間外手当を算出する(原告は、五月は法定休日以外の被告の休日〔土曜日〕に出勤していないし、六月は月間労働時間が所定月間労働日数に八時間を乗じた合計の労働時間以内に収まっているし、七月は法定休日以外の被告の休日に出勤した時間数が平日に欠勤した時間数を下回っている)。

五月の未払時間外手当の合計額については、所定の月間労働時間が一五〇時間であるところ(二〇日に七・五時間を乗じたもの)、原告の月間労働時間が一六二時間一〇分であるから、一〇時間(二〇日に八時間を乗じた一六〇時間から一五〇時間を減じたもの)に一〇八六円を乗じた一万八六〇円及び二時間一〇分に一三五七円を乗じた二九四〇円(小数点以下四捨五入)の合計一万三八〇〇円と認められる。六月の未払時間外手当の合計額については、所定の月間労働時間が一六五時間であるところ(二二日に七・五時間を乗じたもの)、原告の月間労働時間が一六八時間三五分であるから、三時間三五分に一〇八六円を乗じた三八九二円(小数点以下四捨五入)と認められる。七月の未払時間外手当の合計額については、所定の月間労働時間が一五七時間三〇分であるところ(二一日に七・五時間を乗じたもの)、原告の月間労働時間が二五四時間四六分であるから、一〇時間三〇分(二一日に八時間を乗じた一六八時間から一五七時間三〇分を減じたもの)に一〇八六円を乗じた一万一四〇三円及び八六時間四六分に一三五七円を乗じた一一万七七四二円(小数点以下四捨五入)の合計一二万九一四五円と認められる。したがって、五月ないし七月の未払時間外手当の合計は、一四万六八三七円であり、原告の請求は右の範囲で理由がある。

4  したがって、未払賃金額(未払交通費及び未払時間外手当を含む)の合計は四六万八四九五円であり、遅延損害金については、賃金の支払確保等に関する法律六条一項、同法施行令一条により、右に対する一四・六パーセントの割合の範囲で理由がある。

五  原告は、解雇予告手当として二三万八〇四〇円を請求しているので判断する(解雇を受忍したうえでの請求であると認められる)。前記二で認定のとおり、原告と被告との間の契約は労働契約であり、被告は原告を八月一七日に即時解雇したものであるところ、原告は本件ゲームのプログラム作成に関して習熟した能力を有していたわけではなく、八月一七日までに提出したプログラムも中間段階のものとしても不十分なものであったが(前記二8、証拠略)、これらの事実は解雇事由にはなり得るとしても、労働基準法二〇条所定の解雇予告手当を支払わない即時解雇を基礎付ける理由とはならないから、原告には解雇予告手当を支払う義務があるというべきであり(なお、原告の請求は、右解雇直前の賃金締切日である平成七年七月末日以前の三か月(九二日)の賃金総額七五万円を九二日で除して平均賃金を算定し、それに三〇日を乗じたものの範囲内である)、原告の請求には理由がある。

六  原告は、時間外手当の割増賃金部分(法外残業時間に関する未払賃金部分)及び解雇予告手当について、それぞれ同額の付加金を請求している。しかしながら、前記一及び二で認定判断したとおり、本件は原告と被告との間の契約に労働基準法の適用があるか否かが問題となったもので、労務供給の客観的な事実関係が右判断の重要な要素となっているものであり、殊に、本件はゲームソフトのプログラム作成へ従事している者の問題で、このような労務供給形態は比較的最近になって問題となってきたものであること等を考慮すると、被告が本件契約に労働基準法の適用がないと考えて右金員の支払いをしなかったことをもって、制裁としての付加金の支払いを命ずることは相当ではないと認められるから、原告のこの点に関する請求は理由がない。

七  以上によれば、原告の本訴請求は、未払賃金(未払交通費及び未払時間外手当を含む)四六万八四九五円とこれに対する平成七年一二月九日から支払済みまで年一四・六パーセントの割合による遅延損害金の支払い並びに解雇予告手当二三万八〇四〇円とこれに対する民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、被告の反訴請求は理由がないからこれを棄却することとして、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行宣言について同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 片田信宏)

別紙(略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例